相場解説者の悩み
日経平均は、ほんのわずかな需給バランスの崩れによって予想外の動きをします。その流れに乗ろうと有象無象の投資家や高速ロボットたちが待ち構えています。何かの拍子で崩れた需給に短期筋が順番に乗ることで、長期筋が参入する前に大きな流れができあがってしまう場面はいたるところで起ります。これは、鬼の居ぬ間の洗濯、まさに長期筋や実需筋が登場するまでのあいだに短期筋同士がババの引き合いをしているようなモノです。
長期的にはマネーフロー、マクロ経済動向、企業業績に従ってあるべきレンジに日経平均は収まりますが、短期的な値動きは紙一重の世界です。そんな中で、今日の日経平均の予測をしたり、日経平均の動きを解説したりすることは大変難しい仕事です。本音ベースでは、予測などできない、理由などないとわかっていても仕事はこなす必要があります。しかしながら、1日の値動きをあとからもっともらしい説明や解説をしたところで、真相は誰にも分かりません。値動きを理由に参加しているトレーダーにとっては動いた理由などどうでもいいのです。したがって、解説者の役割はトレーダー以外の投資家にわかりやすい解説をすることに主眼がおかれます。信憑性など気にせずに、わかりやすく雄弁に、経験と想像力を使って材料と値動きをこじつければよいということになります。
自分で好んで相場解説者になった人はほとんどいないと思います。会社所属のアナリストやストラテジストも、日経平均の短期的な動きに理由を求められるのにはいい加減辟易しているでしょう。その点、テクニカルアナリストとかマーケットアナリストとかいう職種は、絶妙な立ち位置にあります。視聴者の聞きたいストーリーを予想しながら即興で話ができる市場芸人とよべる専門的な仕事かもしれません。
便利なテンプレート
日経平均が上昇しても下落しても、同じ事実を使って説明できる便利なテンプレートがあります。これを覚えておけば、どのような展開になってもコメントに困ることはないのです。この言い回しを基本形としてほとんどの相場解説というものは組み立てられるのです。次の例は、同じ日銀短観の結果を使って、日経平均の上昇と下落の原因を説明する鉄板テンプレートです。
日経平均が上昇したとき
午前の日経平均は上昇した。寄り付き前に発表された日銀短観は大企業の業況判断が市場予想を下回ったものの、前回調査に続き今回も基準となる50%を上回ったことで景気の先行きを前向きにとらえる市場参加者が増えた。
日経平均が下落したとき
午前の日経平均は下落した。寄り付き前に発表された日銀短観は大企業の業況判断が前回調査に続き今回も基準となる50%を上回ったものの、市場予想を下回ったことで、景気の先行きを懐疑的にとらえる市場参加者が増えた。
困ったときのデリバティブ
一般投資家が本当の意味を理解していないデリバティブとAIがからむ用語は、相場解説にはかかせないマジックワードです。裁定残高、幻のSQ、プットコールパリティ、恐怖指数のほか、HFT、アルゴリズムなどです。とりあえず、説明ができないときにはこの単語を使えば、なんとなく恰好がついてしまうのです。日経平均が上がったときも下がったときもこれらのマジックワードさえ枕言葉にしておけば、うまくお茶を濁せるのです。
まとめ
客観的な過去の動きと、責任も根拠もなく何気なく行われている解説は、脳の別の場所に保管しなければなりません。日経平均の短期的な動きにはあまり大きな理由がないことも多いのです。解説というものはその場のいろろな装飾や思い込みが混じっているので、それを鵜呑みにして納得しているようでは相場の世界で生残るのは難しいといえるでしょう。